2010/02/08
神さまのいない日曜日/入江君人
![]() | 神さまのいない日曜日 (富士見ファンタジア文庫) 茨乃 富士見書房 2010-01-20 by G-Tools |
十五年前。神様は世界を捨てた。人は生まれず死者は死なない。絶望に彩られた世界で死者に安らぎを与える唯一の存在“墓守”。「今日のお仕事、終わり!」アイは墓守だ。今日もせっせと47個の墓を掘っている。村へ帰れば優しい村人に囲まれて楽しい一日が暮れていく。だけどその日は何かが違った。銀色の髪、紅玉の瞳。凄まじい美貌の、人食い玩具と名乗る少年―。その日、アイは、運命に出会った。「私は墓守です。私が、世界を終わらせません!」世界の終わりを守る少女と、死者を狩り続ける少年。終わる世界の中で、ちっぽけな奇跡を待っていた―。大賞受賞作登場。
神様の不在。墓守の在郷。
人が生まれなくなり、死者が徘徊する世界。そんな世界の墓守のお話。
坦々と軽快に描写されていく物語は、尾を引かずに世界観を教授する事が出来た。
語られる事が少ないお蔭で、多彩な解釈が出来る。情報不足のお蔭で、不条理な世界観が構築されているとも云える。
何故人が生まれなくなったのか。何故死者が徘徊するようになったのか。神様とやらは何なのか。考え方次第ではどうとでも解釈出来る。
ゾンビものだと仮定して考えれば、宇宙放射線・未知のウイルス・軍用科学(生物)兵器、等々の設定。他にも幾らでもパターンが存在する。
墓守にしろ、ゾンビにしろ、この作品の設定は特殊であり、歪だった。その歪が在るからこそ、この作品がティーンズ小説として、素敵な作品に昇華していたのかもしれないが。
語らぬ設定は多かった。登場人物達の在り方にも、気になってしまう点が在った。それらが、物語の深みが純減する理由たる場合も在る。だがこの作品は、今回作者が作ったロジックで廻っているお蔭で、ある種独特な雰囲気を醸し出す世界を作り上げていたのではないだろうか。その雰囲気は、至極感慨深いものが在った。
真っ向からこの本の挑み、そして受け止めて欲しい。余分な猜疑心はいらないはず。この物語の主人公・アイのように、純粋に物事を捉えるのが大切なのだと考える。
しかしながら私のように猜疑心を捨てすぎると、今作の叙述トリックを見落としたりするので、その辺りは注意が必要ではある。
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2010/02/05
ガーデン・ロスト/紅玉いづき
![]() | ガーデン・ロスト (メディアワークス文庫) アスキーメディアワークス 2010-01-25 by G-Tools |
誰にでも、失いたくない楽園がある。息苦しいほどに幸せな安住の地。しかしだからこそ、それを失うときの痛みは耐え難いほどに切ない。誰にでも優しいお人好しのエカ、漫画のキャラや俳優をダーリンと呼ぶマル、男装が似合いそうなオズ、毒舌家でどこか大人びているシバ。花園に生きる女子高生4人が過ごす青春のリアルな一瞬を、四季の移り変わりとともに鮮やかに切り取っていく。壊れやすく繊細な少女たちが、楽園に見るものは―。
残酷なまでの等身大の青春小説。
紅玉いづき氏の新作。この方は1年に1冊しか、本を刊行してくれない。そのせいもあってか、本が出る度に喜ばしい気持ちになる。
作者の根幹は変わらずに、毎回違う世界を見せてくれるから。1年に1冊の出会いが、とても尊いものになるのだ。
作者がこれまで書いてきたファンタジーものとは違った、現実の女子高生達を描いた作品だった。
今より少しだけ前の女子高生の生活。作者がリアルタイムで感じたであろう現実世界。それらが凝縮され、濃厚な雰囲気を醸し出していた。
彼女達の感じる世界は、一人ひとり全く別のもので。観測者が変わることによって、世界が如何様にも変化するのだという事を、禍々しくも鮮烈に感じ取る事が出来る。
何が正しくて、何が正しくないか。そんな事は誰にも定義できない。彼女達の現実。その1つひとつが正しいものなはずだ。
彼女達は花園を失った。失わなくてはならなかったのだろう。誰しも時の流れに逆行する事は出来ないのだから。
花園を失ったのではなく、1つの過程を過ぎ去ったのだ、と私は解釈する。彼女達には、また新しい場所が用意されているはずだ。それが花園かどうかは分からない。だが人には何かしらの居場所が必要なのだ。望む望まぬに関わらず。
今より少しだけ前。まだ携帯電話がさほど普及していなかった時代。そんな時代に生きた女子高生達を描いた、生々しい青春小説だった。
2010/01/27
月見月理解の探偵殺人/明月千里
![]() | 月見月理解の探偵殺人 (GA文庫) mebae ソフトバンククリエイティブ 2009-12-15 by G-Tools |
「どうしたんだ、暗い顔して。またちゅーでもしてやろうか?」「全部君が原因だよっ!」都築初のクラスに車椅子の少女が現れた。唯我独尊な態度で周囲を圧倒する、その美しい少女の名は月見月理解。彼女は、ネット上のチャット参加型推理ゲーム“探偵殺人ゲーム”の伝説的なプレイヤーにして、大財閥・月見月家の探偵でもあった。「この学校に、人殺しがいる」理解は、初に調査の協力を求めると共に、無視できない、ひとつの勝負を持ちかけてきた!第1回GA文庫大賞・奨励賞、一番の問題作が登場!「ならば今度も俺様を殺してみるがいい。それでは―“探偵殺人ゲーム”を始めよう」。
俺様探偵の私的事件簿。
ライトノベルであり、そしてミステリ。
キャラクター小説としての体を上手く活用している。純粋にミステリ作品として評価すると及第点。ライトノベルだの、ミステリだのと穿った視点で作品を評価するのは宜しくない。純粋に物語の感想を述べよう。
高校生の女の子の一人称が俺様。そして探偵を名乗ると来たものだ。アクの強い設定だ。人の目を引くキャラクターを構築できているので、キャラクター小説としては成功なのだろう。
アクが強いという表現を使ったが、独特なのはキャラクターだけではなく、お話自体一癖も二癖も在る。騙し騙されて信仰していく物語。ミスリードが錯綜してのトリック。
起承転結の結への流れは、読んでいて飽く事がなかった。エンディングまでの流れが、怒涛の勢いで進行したのだ。
終盤の流れに感心させられたのは事実だ。だがその終盤の流れまで持っていく進行に、少々起伏が足りなかった気がする。悪く云ってしまえば、途中で飽きてしまう可能性も在る。タイム・テーブルに若干の改善の余地が在るのだ。
世界のあまり美しくない部分に、直面してしまうような描写が在る。ネガティブな人は読むのに気を付けた方がいいだろう。ネガティブ思考者への、要注意指定書籍だ。
私たちが生活しているのは、綺麗事だけでは乗り切れない世界である。そういう観点から考えると、私はこの作品の在り方は嫌いではありません。人間に完璧な救済の在るお話ではありませんでした。ですが完璧な絶望だけが待っているようなお話でもなかった。読後感は悪くないのだ。
人間の複雑怪奇な精神構造が引き起こした悲劇の物語なのだろう。いや悲劇ではないか。人間が人間らしく生きようとして破綻した物語、とでも云えばいいのか。
一概にこれだと云い切る事が難しい。読み終わった後も、頭の中で物語に対する姿勢が確定しないのは、ある意味においては良い本だったという事なのかもしれない。読後も考察を続けることが出来るのは、その物語に魅力が在るからに、他ならない。
完璧な救済がない代わりに、完璧な絶望もないのだ。